「ねえねえお姉ちゃん。これ、何作ってるの?」
春うららかなとある休日の午後。
自室の机でのんびりと裁縫をしていた姉―――…姫名森由乃(ひなもりゆの)の
横でゴロンと寝転がりながら、姉妹の妹である乃亜(のあ)がふと尋ねて来た。
「ふふふっ…何だと思う、のあ?」
「えーと………帽子?」
ウサギの可愛いアップリケの施されている丸くてふわふわした、ちょうど頭が
すっぽり入りそうなそんな厚手の布の物体を見て、出した乃亜の答えはそれだった。
思わず由乃はクスクスと笑ってしまう。
「うん、のあなら似合うかもね? ―――…あら、残念~」
「わっ、とととっ!」
ちょっとばかり帽子にしては寸法が大き過ぎたらしい。
寝転がっている乃亜の頭に作り途中のそれを乗せてみたが、まるで覆面のように
そのまま乃亜の頭部が首まですっぽり全部収まってしまった。
「……んもぅ、それでこれって結局何なのっ?」
少しほおを膨らませているものの、本気で怒っている訳じゃない乃亜。
頭から脱がせるとそのまま由乃に返した。
「くすくすっ♪ これはね…『ティーコゼ』っていうのよ?」
「ティーコゼ?」
ドーム状になっている布の上辺部分頂点に、輪のような紐を着けながら由乃が説明する。
「ほら、紅茶って蒸らす時間があるでしょう?」
「うんっ」
この双子姉妹も、年頃の女のコの類に漏れず甘いものが大好きだった。特に洋菓子。
だから紅茶はとても身近だったので乃亜の興味も先ほどよりがぜん沸いていた。
「その時にポットの上からすっぽりとかぶせちゃうの。すると飲み頃の時にも温かいでしょ?」
「へぇ……沢山紅茶を作っちゃった時なんかも良いかも」
「ふふっ、そうね~。それにゆっくりご本を読んでいる時なんかも便利だと思うの」
へぇ~、へぇ~!と乃亜が瞳を輝かせて食い入るようにこの『コゼ』を見つめる。
この熱っぽさはその便利さというより、器用な姉への尊敬の念の方が意味合いとしては強い。
自他ともに認める不器用な乃亜にとっては、これはまるで魔法のようにすら映っていた。
「お姉ちゃんってすごいなぁ…何でも作れるよねっ」
「ふふっ…そんなこと無いよ? お姉ちゃんもまだまだなんだよ?」
乃亜はまるで聴こえてないみたいにニコニコしたままそう言っている由乃を眺めていた。
もう…と、慕われている嬉しさとちょっとだけ居心地の悪さを同時に感じながら由乃は笑う。
「でももう完成しちゃうよね? それ終ったら次は何を作るの?」
「うーん…そうね。もっともっと大きなコゼを作ってみたいわね~」
「え、もっとって…どれぐらいっ?」
ちょっと意外な返事の内容に乃亜が首をかしげている。
「ふふっ……ここの寮がすっぽり入っちゃうぐらい♪」
「は、はいっ!?」
コロコロとのどを鳴らして笑う由乃。
ぽかーん…としている乃亜のサラサラな髪の上にそっと手を置いた。
「みんなの心の温かさが、このままずっとずっと冷めてしまわないように…ね?」
その言葉は、聞いている乃亜の方がテレてしまいそうなぐらいの内容だった。
でも真剣に『そうだったらいいな』と心から願う由乃は真っ直ぐにそう言い切っていて
不思議な魔法みたいな揺ぎ無い力をそこから感じる。
「―――…そっか…えへへっ…」
「うん?」
お姉ちゃんの、優しく包むようなコゼが見えた気がした…とはちょっと口に出来ない乃亜。
自分の発想の恥かしさにテレ笑うと、おもむろに立ち上がった。
「それじゃあたし、ケーキ買ってくるよっ! 後でさっそくそれ、試してみようよっ」
「ええ、それは良いわね~♪」
何のケーキが良いかは確認しなくてもわかる。
由乃に手を振ると一目散に階段を駆け下りて、春の陽気に包まれた外気へと乃亜は飛び出して行った。
またひとつ、姉の大好きな所が増えた乃亜だった―――…